スーパーコンピュータ「京」見学レポート
9月24日(日)、理化学研究所計算科学研究機構などの主催で「スパコンが生み出す私たちの未来~防災、創薬、ものづくり~」というイベントが開催され、日本が誇るスーパーコンピュータ「京」の一般公開と市民向け講演会がおこなわれました。世界最高レベルのスパコンを自分の目で見ることができるいい機会と思い、参加してみました。
スーパーコンピュータ「京」については、みなさんも名前は聞いたことがあるかと思います。かつて民主党政権時代の事業仕分けで「2位じゃダメなんでしょうか?」と槍玉にあげられた巨大国家プロジェクトによって開発されたスパコンです。どこに設置されているのかまではご存知ない方が多いと思いますが、実は私の住むポートアイランド内に、今回のイベントを共催する理化学研究所計算科学研究機構があり、そこに「京」が設置されているのです。ポートライナーの駅名も「京コンピュータ前」となっています。
「京コンピュータ前」駅を降りてすぐ、広い芝生を前にして理研計算科学研究機構のビルが建っています。自由見学開始時間の13時過ぎに到着し、早速、中へ入って行きました。
エントランスには「京」というロゴが書かれた巨大な垂れ幕が掲げられています。ちなみに、スパコンの筐体にもえがかれているこのロゴは、大河ドラマ「天地人」の題字などで有名な書道家武田双雲さんによるものです。
この「京」という名前は、浮動小数点演算を1秒間に1京(1兆の1万倍、10の16乗)回、処理できる能力(=10ペタフロップス)に由来しています。京コンピュータはまさにこの10ペタフロップス(=京速)を実現するナショナル・リーダーシップ・スーパーコンピュータ(つまり日本の旗艦スパコン)の構築を目的とする国家プロジェクトとして2005年から開発が始まりました。その後、例の事業仕分けで一時凍結されかけたものの各方面からの反発と巻き返しにより復活し、2012年6月に完成しました。
完成前の2011年6月と11月にTOP500というコンピュータの性能ランキングで世界1位を獲得し、目標の10ペタフロップスを実現しますが、その後、2012年6月にIBMのセコイアにトップを奪われ、2017年6月現在では8位に後退しています。一方、Graph500やHPCGというランキングでは現在もなお京コンピュータが世界1位を維持しています。この違いは、TOP500が単純計算の速度を評価するのに対し、Graph500は大規模・複雑なデータの解析性能を、HPCGは実アプリケーションでよく使用される計算を実行する性能を、評価するという違いから来ています。つまり、アルゴリズムやプログラム、さらにはメモリやネットワークの性能を含むより実用的な処理能力のランキングにおいては、京コンピュータが依然、世界トップということです。
スパコンの本体はこのビルの3階(エレベータの表示上は6階でしたが)に設置されています。2階は空調機、1階には「グローバルファイルシステム」が設置されています。グローバルファイルシステムというのは、PCでいえば外付けハードディスクみたいなものでしょうか。30ペタバイトという巨大な記憶容量にデータを保存しており、実行中の処理に必要なデータだけを3階のスパコン本体へ転送し、処理が終わったらその結果をまた1階のグローバルファイルシステムに転送して保存する、という仕組みになっています。
では、いよいよ、スパコン本体を見に3階へ行きましょう。スパコンが設置されている部屋自体には当然入ることができませんが、ちゃんと隣に見学用の部屋が用意されており、そこからガラス越しにスパコンを一望することができます。
では皆さん、世界最高スーパーコンピュータ「京」をご覧ください!
「京」を構成する800台以上の筐体(ラック)と計20万本以上・総延長1000km以上にもなるケーブル、そして冷却水用配管がこの部屋と、その床の下の「フリーアクセスエリア」に整然と配置されています。写真を見ていただければおわかりと思いますが、最大限効率的な配置を実現するために、この部屋には柱が1本も存在しません。このような構造は最上階でのみ可能なものであり、下の階でこのような柱のない広い部屋を作ると建物の強度が不足してしまいます。これこそ「京」本体が最上階である3階に設置されている最大の理由です。
「京」の部屋に人が入るのは、基本的にメンテナンスや修理のときだけですが、例外として貴賓が視察や見学に来られたときには、中に入って直接見ていただくこともある、とのことでした。最近では秋篠宮殿下お成りの際に入室していただいたそうです。
ズラリと並ぶ筐体(ラック)の中がどうなっているかというと、ちゃんと模型が1階に展示されていました。まあ、見てもどれが何なのかわかりはしないのですが。
また、CPUの稼働状況をリアルタイムで確認できるモニタも1階に設置されていました。
上のグラフがCPUの稼働状況で、赤が実行中のCPU、緑が待機中のCPUを示しています。下のグラフはジョブ数の推移で、赤が実行中のジョブ、オレンジが実行準備完了したジョブ、緑が待機中のジョブです。
いろいろ見て回っているうちに、自由見学時間が終了。このあと、隣接する、神戸大学先端融合研究環統合研究拠点で開催された講演会も聴講し、いろいろ興味深いお話をうかがえたのですが、それについて書き始めると記事が終わりそうにないので、この辺で筆をおきたいと思います。
なお、現在はまだ世界トップクラスの京コンピュータですが、永遠にトップを維持できるわけはなく、いずれは「型落ち」になることははっきりしています。そのためすでに、後継となるべき「ポスト京」スパコンの開発が始まっていて、2021年頃の使用開始が見込まれています。近年話題のビッグデータやAI(人工知能)と、スパコンによる大規模シミュレーションを結び付けることでイノベーションを起こし、社会の生産性を向上させるというビジョンは非常に魅力的ですが、その実現は必ずしも容易ではないでしょう。ビッグデータやAIの技術をGoogleやAmazonに抑えられてしまい、世界最高の「ポスト京」は完成したが使い道がない、などということにはなってほしくありません。
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